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2008.11.23

CDアルバムが売れない理由(かなり長文)

昨日、本屋で今月号のRockin’on JAPAN誌を立ち読み(失礼)していたところ、山崎洋一郎編集長の編集後記「激刊!山崎」で、最近の日本の音楽業界の「CDが売れない事情」について書かれていた。
シングルCDが着うたやダウンロードに押されて売れないのはここ数年ずっと続く傾向だが、最近はそれに加えてアルバムのCDまで売れなくなってきているらしい。その影響で、レコード会社から離れて別の業界に転職する人も続出して深刻な事態になっている、との事。
じゃぁエンタメの業界そのものが縮小してきているのかというと決してそうではなく、各ミュージシャンのライブの収益はむしろ以前より伸びてきているし、映画もある程度の上がり下がりはあるがそこそこの収益を上げている。音楽業界でもダウンロード・着うた市場はそこそこ拡大する中、音楽CDだけが売れなくなっている、というのはなぜかと。

その記事では、「アルバムCDをみんな買わない理由」について、ネットの影響だけでなく、特に最近の日本のアーティストのアルバムに「良いアルバム」が無いからでは、と書いていた。
そこで言う「良いアルバム」とは、曲単体が良いというだけじゃなくて(単体で見れば良い曲はたくさんある。むしろ以前よりレベルは上がっている位)、「アルバム全体の構成を考えて、曲の集合体としての全体をひとつの作品として聴かせようとしている作品」という様な定義だったと思う(立ち読みだったので若干うろ覚え)。そういう「良いアルバム」が無いから、みんなアルバムCDを買うことに興味を持たず、単体の曲をバラバラにダウンロードや着うたで買ってさらっと聴く、という傾向が強くなっているのでは、と。
そこに比較対象として、海外のアーティストを何件か挙げて、海外では全体の構成をしっかり考えたアルバムを出している例が多く、実際ちゃんと売上実績を挙げていると。

まぁ言いたい事は分からんでも無いが、ここで海外のアルバムの例を持ってきてしまうと、話がおかしくなってしまうのでは、と思う。
そもそも音楽業界の事情として、日本と欧米諸国とでは、アーティストが楽曲をリリースする形態としての「アルバムCD」という物の位置付けが全く異なるので。

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その「日本と欧米諸国のアルバムCDの位置付けの違い」は今回の話の大前提なので、以下、少し細かめに書いてみる。

欧米のCDのリリースの仕方は概ね共通していて、とにかくまず「アルバム」がリリースされる。もちろん収録曲がアルバムリリース前のライブとかで演奏される事はあるが、「商品として市場に出される音源」としてまずリリースされるのはアルバムCD。
すなわちそのアルバムに収録された曲は基本的に全て世間に初お目見えの新曲となる。
但し実際はそのリリースに合わせて、そのアルバムの目玉になる1曲はアルバムと同時、もしくは先行(長くてもアルバムのリリース数ヶ月前程度)でシングル曲としてリリースされる。但し近年では、シングル「CD」が実際リリースされるのではなく、ダウンロードでの音源先行販売に加えてその曲のビデオクリップがメディアに公開され、MTVなどで頻繁に流されるのみ、という形が多い。(そもそも欧米ではもはや「シングルCD」というものの市場はほとんど絶滅寸前)
で、アルバムのリリース後、数ヶ月ピッチでアルバム内の曲から1曲ずつビデオクリップが公開されていく形になる。(日本的に言うと「アルバムからシングルカットされる」形)それが1枚のアルバムCDリリース後、大体1年・2年間続く。MTVなどでのチャートの対象も今ではこのビデオクリップで公開されたシングル。(だからCDとしては、事前にアルバム曲として出た後の曲が大部分を占める)

もちろんアルバムに未収録の新曲が出る事もあるが、それは何ヶ月後・何年後になるか分からない次のアルバムに入れるのではなく、既にリリースされた最新のアルバムに追加されて再発される事も多い。最近では、Rihannaのアルバム”Good Girl Gone Bad”のリリース後1年弱経ってから、新曲が3曲追加されて再発となった”Good Girl Gone Bad: Reloaded”などがその例。(追加の3曲のうち2曲はビデオクリップも公開された)
それに、アルバムのリリースピッチも1年というのはかなり短い部類で(若手や、人気が旬のアーティストの場合はもちろん1年ピッチくらいで出す例も多いが)、大抵は2年以上、中堅・ベテランになると3,4年くらい掛かる例が多い。今週末リリースのGuns n’ Rosesの14年はいくら何でも極端だが(笑)

こういう流れで楽曲の制作が進むのが標準的なので、結果的に、各アーティストはオリジナルアルバムに、十分に時間をかけて、自分のリリースする音楽作品のほぼ全ての物を注ぎ込む形になる。なので、そのアルバムに自分の描きたい世界や訴えたい事をどういう形で収め、構成していくか、そういう事に集中出来るわけ。

ちなみに、ここ1年で個人的に最も聴きまくっている洋楽アルバムはというと、Radiohead(良いアルバムを作っている海外アーティストの例として山崎洋一郎も記事で挙げていたうちの1組)が昨年末にEMIから離れてから初めてリリースしたアルバム”In Rainbows”なのだが、もうこのアルバムなんてその典型の様な内容。
全10曲、通して聴くとThom Yorkeがこのアルバムで描きたい雰囲気・世界がどういう物なのか、というのが聴いていて明確に見えてくる。これは単に曲調が一緒とか、ジャンルが一緒とか、そういう次元の話ではない。
それで個人的にも気に入って何度も聴いている。
他には、今年のColdplayのアルバム”Viva La Vida or Death and All His Friends”などもそういう面で見ても非常に良く出来たアルバムだったと思う。

一方の日本の音楽リリース状況はというと、欧米とは全く異なる。180度逆、と言っても良いくらい。
日本のメジャーレーベル所属のアーティストの場合、まず「完全な新曲」としてのシングル曲が何曲かリリースされる。特に有名どころのアーティストや、特定のレコード会社所属のアーティストの場合、ドラマやアニメや映画のタイアップ付きだったりCM曲だったり、他のメディア側からのリクエストを元にシングルがリリースされる場合がかなりの割合を占めている。(もちろん海外でも同様の例が無い訳ではないが、そういうシングル曲が大勢を占める様な事は無い)
しかもそれらのシングル曲はビデオクリップやダウンロードだけじゃなくて、「シングルCD」という形で全国のCD店の店頭で発売される。欧米と違い、日本ではまだシングルCDがそれなりに利益を上げられる程度の価格レベルでリリース出来る市場が残っているので。
で、そのシングルCDの「売上枚数」がオリコンのシングルチャートという形で世間に出回る。
まぁ最近のシングルCDに複数枚商法やら握手会商法が度々使われる中、オリコンの「シングルチャート」が「楽曲やアーティストの本来の人気」を示す指標としての価値をほとんど失っているのは業界の状況を知る人には周知の事実だが、そこは「腐っても鯛」「腐ってもシングルチャート」。まだまだこの業界でこのチャートの影響力は弱まっていないのが実情。
当然、このシングルチャートという「曲単位の指標」は、年末の紅白歌合戦や一連の「日本ナンタラ音楽大賞」の選定の基準にも使われる事になる。なぜなら、こういう年末のTVの音楽イベントはほとんどが「アーティスト個人」ではなく「曲単体」に照準を絞った企画だから。
それがある以上、レコード会社が「まずはシングル曲主体に曲を売る」という構図は恐らく変わらない。

その後、そういう数曲のシングル曲リリースを経て、アルバムがようやくリリースされるのが日本のメジャーでのCDリリースの流れ。(もちろんインディーズだとまた状況は違うが)
そのアルバムには、既に先行で世間に出回っている「シングル曲」数曲をまとめて改めて「再収録」する事で、そのアルバムの「目玉」にするのが通例。
それらのシングル曲は、そもそも他メディアのリクエストで制作・リリースしている物の割合が多いだけに、その後出されるアルバムの構成まで考えて先を読んでは作られていない場合が多い。
それに加えてアルバム自体も、有名どころの人は大抵1年ピッチか2年ピッチで、山崎洋一郎の文面上の言葉を借りるとレコード会社のビジネススケジュールに準じて「ルーティン」で作成されている様なもの。そこにそういう、バラバラに作られたシングル曲が2曲・3曲と入ってくるから、全体の構成もはっきりしない、単に新曲含めて10何曲並べて入れてみました、だけで終わってしまう様なアルバムは結果的に多くなってしまう。もちろん全部がそうだと言うつもりもないが。(例えばPerfumeの”GAME"あたりは、今年の邦楽アルバムCDの中でも相当しっかりした構成で作られている部類に入ると思う)

日本の音楽業界ではこういう楽曲リリースの流れだから、アルバムに、自分が音楽で描きたい世界をしっかり構成して作ろう、としてもなかなか難しい環境なんじゃないか、と思う。(もちろん各アーティストはその環境の中で精一杯やってるとは思うが)
特に、若手で旬の人達で、レコード会社からは売上枚数を求められ、各メディアからはタイアップ作品を次々求められる様な立場の人だと尚更である。

また、聴く側・買う側も、シングル曲をアルバムリリース時点では既に聴いてしまっているだけに、当然「あのシングル曲が入っているから・聴きたいから」アルバムを買う、という思考回路を働かせて買う人が多くなる。すなわち聴く前からシングル曲とそれ以外のアルバム収録曲に無意識に格差を付けてしまっている。(特に、そのアーティストのコアなファンじゃなく、シングル曲から入って「一度アルバムも聴いてみようか」くらいのライトな感覚で入ってくるファンはほとんどそうだろう)
そういう人はアルバムの全体の流れなんて気にせず、場合によってはシングル曲だけスキップして聴く、なんて事も多いのでは。

それに加えて今の時代の様に、シングル曲をダウンロードや着うたで比較的入手し易くなると、一般人にとっては「余計な他の曲」が入ってるアルバムを高い金出して買う位なら、曲単位でデータ落として済ませてしまおう、という事になり、アルバムのCDは結局「そのアーティストのよっぽどのファン」か、「とにかく音楽を聴く事が趣味」みたいな人でも無い限り買いもしないしレンタルすらしない、それが今の状況なんじゃないかな?
そりゃ、そんな状況でミリオンセラーなんてよっぽどでなけりゃ出ないでしょうね。100万人のコアなファンのいるミュージシャンなんてまずいないし。

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結局言いたい事は何かというと、日本の音楽市場でCDアルバムが売れないのは、別に作る側の怠慢で売れる曲が作れないとか、ダウンロード販売が広まったからとか、そういう1つの理由だけで説明出来る単純な構造ではないという事。
日本特有の音楽業界の構図、それに準じたCDのリリースの仕方、それに加えてもちろんダウンロード・着うたが広まりつつあること、それぞれの複数の要素が絡み合っての結果であり、簡単に解決出来る話ではないという事である。

今更着うたやダウンロードを市場から消すのは不可能だから、もし音楽業界が本気でCDアルバムの売上を底上げしたいのであれば、「曲の大ヒット」ばかりいくら待っていたってダメで、上に書いた「よっぽどのファン」か「音楽を聴く事が趣味」な、CDを率先して購入する客層を増やす努力をしていくしか無いのである。
それなのに、実際の今の音楽業界は全くそういう方面には動いていない。着うたで流行らせる曲を聴いても、とりあえず手っ取り早く、キャッチーな曲のサビの部分だけを提供してライトなファンから広く浅く回収しよう、という、いわば全く逆の流れ。
結局これって、今後「CDを率先して買う客層」になってくれる可能性のある音楽好きの若い人達の層に対して、そういう可能性を奪う行動を業界そのものが実践している様にしか見えない。これって自分で自分の首を絞めている様なもんだと思うんだが。

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最後に途中で触れたRadioheadのアルバム “In Rainbows”から個人的に特にお気に入りの2曲紹介。
「曲の中に自分の描きたい世界を示す」ってこういう事だ、というのが、この2曲だけからでも感じ取って頂ければ。

Jigsaw Falling Into Place

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